はじめに
最近よく耳にするようになった「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」。
医療の現場で、いま大きな問題になっています。
患者さんやそのご家族などからの心ない言葉や行動、理不尽な要求…。
そういったハラスメントは、私たち医療従事者の心と体を深く疲れさせてしまいます。
それは医療の質の低下にも、つながりかねません。
「あれ? 私が経験したあの出来事も、もしかしてペイハラだったのかな…?」
この記事を読んで、そう感じる方もいるかもしれません。
この記事では、ペイハラとはいったい何なのか、どんな具体例があるのか、そして私たちにできる対策や、困ったときの相談先、さらには法的な責任についてまで分かりやすくお伝えしていきます。
医療スタッフだけでなく、患者さんやご家族にもこの問題への理解を深めていただき、みんなでより良い医療環境を築いていく。
そのためのヒントになれば、うれしいです。
「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」とは?
ペイハラとは、患者さんやそのご家族などから、私たち医療スタッフに対しておこなわれる、さまざまな「迷惑行為」や「嫌がらせ(ハラスメント)」全般のことを指します。
その内容は本当に幅広く、たとえば…
- 言葉による暴力(暴言、ののしり)
- 威圧的な態度、おどし
- 無理な要求、クレーム
- セクシャルハラスメント(性的な嫌がらせ)
- SNSなどでの誹謗(ひぼう)中傷
などが含まれます。
これまでは「一部の、ちょっと困った患者さんが起こす問題」として、残念ながら見過ごされてきた面がありました。
しかし近年になってその深刻さが広く認識されるようになり、医療現場における重要な課題として、真剣に向き合う動きが広がっています。
知っておきたい!ペイハラの事例
では実際にどのような行為が、ペイハラに当てはまるのでしょうか。
具体的な例を見ていきましょう。
- 言葉による暴力・おどし
- 「お前みたいな医者(看護師)は辞めちまえ!」などと大声でどなる
- 「訴えてやる!」「ネットで悪い噂を流すぞ!」などとおどす
- 人格を否定するような、ひどい言葉をあびせる
- 不当な要求
- 診察時間外や予約なしでの診察を、むりやり求める
- 医学的に必要のない検査や治療を、強く要求する
- 医療費の支払いを拒否したり、不当な値引きを求めたりする
- 個人的な連絡先(電話番号やSNSアカウントなど)をしつこく聞き出そうとする
- セクシャルハラスメント(性的な嫌がらせ)
- 性的な冗談を言ったり、からかったりする
- わいせつな画像を見せたり、送りつけたりする
- 必要もないのに体にさわってくる
- 性的な関係をせまってくる
- SNSなどでの誹謗(ひぼう)中傷
- 事実ではない悪いうわさや悪口を、インターネット上に書き込む
- 医療スタッフの個人情報を特定して、ネット上で攻撃する
- SNSで、しつこく嫌がらせのメッセージを送ってくる
- その他の迷惑行為
- 何時間にもわたってクレームを言い続けたり、つきまとったりする
- 物を投げつけたり、大声で騒いだり、暴れたりするなどの暴力行為
私の体験談:ペイハラは、心身を深く傷つけます
私が実際に受けたペイハラの中には、患者さんから叩かれたり、強く引っかかれたりといった、直接的な暴力もありました。
また大声で怒鳴られたり、「覚えてろよ」といった言葉で脅されたりすることも、残念ながらありました。
でもどんなに怖くても、嫌だと思っても、その患者さんの治療をやめるわけにはいきませんでした。
治療をしなければ、病状はどんどん悪化してしまうからです。
だから嫌でもその患者さんのもとへ行かなければならず、処置やケアに向かう前は、毎回のように胃がキリキリと痛むような、本当に辛い思いをしていました。
これらのペイハラ行為は、私たち医療従事者の心に大きな負担を与えるだけでなく、他の患者さんの大切な診療時間をうばい、医療の安全をおびやかす可能性すらあるのです。
現在では、医療従事者に対して横柄で乱暴な態度をとる患者さんに対しては、病院側でしっかりと対策をとってくれるようになり、すこしずつ働きやすい環境になっていると思います。
どうすれば? ペイハラへの対策
ペイハラという深刻な問題に対しては、私たち一人ひとりががんばるだけでなく、病院やクリニック全体で、組織としてしっかりと対策に取り組む必要があります。
そして同時に、患者さん一人ひとりのご理解とご協力もなくてはならないものです。
【医療機関側ができる対策】
- ルールの整備
ハラスメント対策の委員会を作り、何がハラスメントにあたるのか、どう対応するのか、どこに相談すれば良いのか、といったルールを明確にします。 - 職員への研修
ペイハラに関する正しい知識や、具体的な対応方法について、職員向けの研修をおこないます。 - 対応マニュアル作り
実際に起こりうるケースを想定した対応マニュアルを作成し、いざというときに慌てず適切に対応できるようにします。 - 情報共有
院内で起きたハラスメントの事例や、その対応状況などをきちんと共有し、組織全体で問題意識を持って対策に取り組みます。 - 外部との連携
必要であれば、警察や弁護士など外部の専門機関と連携し、法的な措置も含めた対応を検討します。 - 安全対策の強化
状況に応じて、警備員を配置したり、監視カメラを設置したりすることも検討します。
【患者さん側にお願いしたいこと】
- 冷静なコミュニケーション
感情的にならず、落ち着いて医療スタッフと話すように心がけていただけると助かります。 - 感謝と敬意
医療スタッフも、皆さんのために日々努力しています。
どうか敬意を持って接していただけるとうれしいです。 - ルールを守る
病院やクリニックには、他の患者さんもいます。
決められたルールや指示を守り、周りの方への配慮をお願いします。 - 意見は建設的に
もし不満や意見がある場合は、感情的に訴えるのではなく、具体的な内容を冷静に伝えていただけると、より良い解決につながりやすくなります。
ひとりで悩まないで! 困ったときの相談窓口
もし、あなたがペイハラにあってしまい、どうして良いか分からなくなってしまったら…。
絶対にひとりで悩みを抱えこまないでください。
相談できる場所は、ちゃんとあります。
- 医療機関内の相談窓口
多くの病院やクリニックには、患者さんからの相談を受け付ける窓口や、ハラスメント対策の担当部署(委員会など)が設置されています。
まずは、あなたの職場の相談窓口にアクセスしてみましょう。 - 医療関連団体の相談窓口
- 都道府県の医師会や歯科医師会
- 看護協会(看護職向け)
- 労働組合(加入している場合) などにも、相談窓口が設けられている場合があります。
- 外部の相談窓口
- いのちの電話: つらい気持ち、精神的な悩みを誰かに聞いてほしいときに。
- よりそいホットライン: 孤独や不安など、さまざまな悩みに寄り添ってくれます。
- 法テラス(日本司法支援センター): 法律的な問題について相談したいときに。
ペイハラは「犯罪」になることもある?
ペイハラの内容や程度によっては、刑法上の「犯罪」として扱われる可能性があります。
- 殴る、蹴るなどの暴力行為 → 暴行罪、傷害罪
- 「殺すぞ」「家に火をつけるぞ」などとおどす → 脅迫罪
- 事実に基づかない悪口を言いふらす、ネットに書き込む → 侮辱罪、名誉毀損罪
- 土下座を強要する、無理な要求を押し通そうとする → 強要罪
- 大声で騒ぐ、居座るなどして業務を妨害する → 威力業務妨害罪
- 性的な嫌がらせ → 内容によっては 強制わいせつ罪、不同意わいせつ罪 など
もちろんすべてのペイハラが、すぐに警察沙汰や刑事事件になるわけではありません。
しかしあまりにも悪質で、目に余るような行為に対しては、警察への相談や、法的な手続き(告訴など)もためらわずに検討すべきです。
医療機関としても、「ダメなものはダメ」という、きぜんとした態度で対応することが重要になってきます。
まとめ:より良い医療環境のために、できること
この記事では、ペイシェントハラスメント(ペイハラ)とは何か、その具体例、対策、相談窓口、そして法的な責任について、お伝えしてきました。
ペイハラはどんな理由があっても、決して許される行為ではありません。
私たち医療従事者が、安心して、安全に働くことができる環境を守ること。
それは質の高い医療を、すべての患者さんに提供しつづけるために、絶対に不可欠なことです。
この問題は、医療現場だけで解決できるものではありません。
医療従事者、患者さん、そして社会全体が、ペイハラの問題を正しく認識し、お互いを尊重しあう気持ちを持つことが必要です。
さらに、日頃から患者さんと丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。
看護師自身も、カッとなったときの怒りの感情とうまく付き合うスキル(アンガーマネジメント)を身につけるのもよいかもしれません。
そして、社会全体で医療従事者を支え、守っていこうという意識がひろまればよいと考えます。
これら一つひとつがペイハラを防ぎ、より良い医療の未来へとつながっていく大切な一歩になるはずです。
免責事項
このブログ記事は、ペイシェントハラスメントに関する一般的な情報提供を目的として作成されており、医学的または法律的な専門家によるアドバイスを提供するものではありません。
- 情報の正確性について: 記事の内容は、現時点での一般的な情報に基づいて作成されていますが、その正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。医療や法律に関する情報は常に変化する可能性があり、最新の情報や個別の状況については、必ず専門家にご相談ください。
- 個別の状況への適用: 記事で提供される情報は一般的なものであり、個々の状況にそのまま適用できるとは限りません。具体的な対応や判断については、ご自身の状況を考慮し、医療機関や法律の専門家にご相談ください。
- 相談窓口について: 記事内で紹介している相談窓口は、一般的な情報に基づいており、その対応や利用 については各窓口の規定をご確認ください。
- 法的責任について: 記事内で法的責任について触れていますが、これは一般的な法的解釈に基づいたものであり、具体的な法的判断は司法機関によって行われます。
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